【No.3】
2004年7月19日
意見というより、実感として辛いんです癌治療は・・・大変なんです。
癌治療に限らず医療、端的に言えば医師の仕事はしんどいのです。
救急疾患は救急疾患として、急性疾患は急性疾患として、そして慢性疾患は慢性疾患として、その取り扱い・スタンスは違いますが、それぞれ奥が深く大変なんです。しかしながら一般病院では全ての疾患に医師は従事しなくてはいけません。
本当は、それぞれが大変でも扱う疾患を各医師が特化し専従すれば、あるいは多少の余裕が生じその分仕事への集中力も高まるかもしれません・・・。
けれどもそんなに医師をたくさん雇うことは無理なのです。
普通医師は、外来業務・検査及び治療の仕事・入院患者に対する業務・そして事務仕事などに関わります。
勤務医の外来は、週2−3回です。外来でしか顔を合わせない患者さんは”先生は○曜日と△曜日しか、それも三時間待って三分しか見てくれない”とあたかも週数日・数分しか仕事をしていないかのように不平を言われますが、その患者さんと話している時間の他にも延々と仕事が有るのです。
多くの病院が、主治医制です。仮に外来業務中でも病棟の患者さんが急変すれば呼ばれ、その間外来が止まることも有ります。
入院患者さんは入院患者さんで主治医に診てもらいたい、外来患者さんは外来患者さんで主治医に診てもらいたい。実際細かなさじ加減は長く診ている主治医の方が良いことが多いこと、他の医師は他の医師で業務を変わろうにも自分の仕事で一杯一杯なのでそれどころではない。ことなどより結局何処かの業務が滞り非難を浴びます。
医師は、いわゆる日勤(会社などでのAM8時半からPM5時半の通常業務)をこなし(といっても多くの日は、検査や手術などその時間内に終わらないことが多いのですが)、当直日はそのまま当直に入り、当直が明ければそのまま次の日勤に入ります。主治医制をしいていれば当然非番の日・時間でも呼び出し・問い合わせが有ります。下手をすれば数日病院へ釘付けのこともありますが、決してそれに対する代休は望めません。
そのような状況で大イベントに携わるのです。”癌”それは患者本人、その家族にとって真に大イベントです。実際癌はごくごくありふれた病気では有るのですが・・・。
その人達は、主治医に24時間365日の手厚い治療を期待します。最近の医師は決して尊敬されているとは思えないのですが、この時ばかりは医は仁術・医師は聖人で有ることを期待されます。
インホームドコンセント、コレもやっかいです。当然患者に対して当然必要な手続きですが、拡大解釈されその家族にも適応されます。
また問題は、インホームすれば必ずコンセント(否コンセントでも良いのですが)されない点です。”良くわからない”・”どうしたらよいのか決められない”ということが多いのです。それは死生観が無い・正老病死という極当たり前の出来事に対する理念が無いと言うことです。
インホームドコンセントは契約・被契約者にとって大切な手続きです。しかしそれは双方が一定以上の理念をもって望むときに成立するのですが、現状は赤子と数億の土地売買をするがごときです。
取り巻き(家族)もやっかいです。時間的にも理念的にもまとまりが有りません、その上理解力もまちまちです・・・。
入れ替わり立ち替わり説明を希望されることがしばしば有ります。彼らは、ウイークデイは忙しいから来られない・通常勤務時間は自分も働いているから来られないと言います。一般の商取引でそういうことを言うのでしょうか?(人の命は地球より重いといいつつ・・・。)主治医は時間外、休日出勤を強いられます。ボロボロです。当然彼ら彼女らからはコストは取れません。ただ働きです。
(仮に金をもらっても、直接主治医のもうけにはなりませんが・・・。)
それでもみんなが理解して、その結果患者の治療に寄与すればよいのですが多くは話しが複雑化するだけです。
”化学療法に本人とその家族は納得しているのだが、一族の重鎮である大叔父が反対している” と言うようなナンセンスな話しも生じます。”えっ?”と言うのが主治医の本音ですが、あちらは大まじめ、患者も”先生、僕はいずれ死にますが、大叔父ともめると残される妻の立場が・・・”と言われたことがあります。本当にせつないです。
癌治療から撤退する医師について、平岩先生もことあるごとにおっしゃりますが私もその一人になりそうです。C医師に関しては少ない患者で手一杯と有りますが、誠実で有れば誠実で有るほどそれは本音で非難できないことだと思います。草の根活動としても頑張って欲しいです。
医療・福祉の行く末は不透明です。今の医学・医療は自然の摂理から言えば神に対する挑戦と言うべきレベルへ達しようとしています。人々は(患者となり得る全ての国民・医療関係者はもちろん政治を行う者は)よくよく考えるべきです。何処へ向かうべきか、そしてそれにはどうするべきかを・・・。
南無。
このページは、週刊現代 読む抗ガン剤 第112回 『吐かない弱音、吐く弱音』の中に出てくる「C医師」に対する意見を掲載しております。(選考は平岩先生が担当しております。)