副作用のない抗がん剤治療

第1章 あまりに遅れた日本の抗癌剤治療

Web版 第1章その1
【副作用のない抗癌剤治療は癌治療に革命を起こす】


第1話 「癌難民」の不幸

 現在の日本における癌治療は、過渡期にあります。それゆえ非常に混乱しています。
 いままでの癌治療は、「告知しない」ということと、「充分な治療をしない」ということが表裏一体の関係にありました。

 つまり、告知しなければ、点滴による抗癌剤治療を5日連続でやるというようなことができないわけです。乱暴な使い方をすれば副作用も激しいですから、患者に癌治療を行うということを事前に認識し理解してもらっておかないと、「こんなに苦しい治療はいったいなんだ」ということになります。

 医者と患者がともに癌と闘うという共通した認識をもち、一緒になって頑張ろうという共闘態勢が組めなければ、本当の癌治療というのは難しいのです。隠し隠し治療をやっていても限界があります。本当の意味で、戦いきることなど不可能です。

 さて、そういう現状における癌治療というのは、どういったものになるのでしょうか。
 それは、「癌難民」とでも呼ぶべき患者を生み出してしまいました。どういうことかというと、サジを投げられた、充分な治療を施されない癌患者が、どんどん生み出されるということです。

 ある程度の治療を施してみても、よい結果が得られない場合、これ以上、抗癌剤治療などを施しても副作用で苦しむだけだから、それならばむしろ、本人も癌ということを知らないわけだし、残された時間を有意義にすごさせたほうがいいのではないかという考え方です。

 こんなとき、医者は家族の人たちに、こういいます。
 「もう治療法はありませんから、残り少ない時間を家で好きなようにすごさせてあげてください。またぐあいが悪くなったら診ることにしましょう」

 「またぐあいが悪くなったとき」というのは、つまりもう最後のときです。
 それまでの時間は、医療的にほったらかしの状態になるというわけです。これを「癌難民」と呼ばずして、なんと呼ぶのでしょうか。日本では、年間、26万人、つまり、毎週5000人が癌で亡くなっています。このうちの多くの人が、癌難民に相当すると想像します。



第2話 抗癌剤治療を成功させるには「告知」が欠かせない

 もちろん、残された時間を大切に有意義に使うという考え方には大賛成です。たった1回きりの人生ですから、その貴重な時間を邪魔することなんて、誰にもできません。

 しかし、だからといって、そのあいだ、なんの治療もしないということは、やはりどう考えてもおかしいと思わざるをえません。残された時間を大切に有意義に使えて、しかも最後まで諦めないで治療をつづけるということができたら、どんなにすばらしいいことでしょうか。

 そのために必要なことは、ひとつはやはり「告知する」ということです。癌告知に関する詳細は、またのちほど述べるとして、告知しないとやはり、充分な治療をすることは難しいといわざるをえません。そのことについて、少し触れておきたいと思います。

 私が100%の癌告知を始めたのは、平成7年の4月、静岡県の共立蒲原総合病院においてでした。

 いまでこそ100%告知は、かなりの広がりを見せていますが、平成7年の段階で、しかも地方の一病院において始めたということは、かなり画期的だったといえるでしょう。事実、平成7年の12月には、朝日新聞の第一面において、そういう病院があるということが大きく紹介されました。

 この前年の平成6年4月、赴任してから私は、あることを調べてみました。過去5年間に癌治療を受けた人たちがその後、きちんと来院して検査や治療を受けたかどうかということです。癌でもっともやっかいなのは、やはり再発です。それを素早くキャッチし対処することが大事なのですが、調べた結果、かなりの人が手術後の通院を勝手に中断していたのです。

 つまり、癌ということが告知されておらず、別の病気だとお茶を濁されていたから、手術によってもう完治したものだとばかり思って、その後の検査や治療を怠っているわけです。そのために、結果としてふたたび体調が思わしくなくなって病院にやってきたときは、すでに手遅れになっていた、というケースがあったのです。

 本当のことを知らされている家族も、本人に気づかれないことを優先すれば、無理に病院に行くことを勧められません。家族も、本人に充分な治療を受けさせることと、本人に気づかれないようにすることのジレンマに苦しんでいるのです。

 また、癌であることを医者だけが知っていて、患者が知らないとなると、およそ医者と患者がともに手を取り合って全力投球で癌に立ち向かっていくということはできません。放射線治療にしろ、抗癌剤治療にしろ、おたがいが同じ情報を共有して、「今回の治療の結果はこうでした。つぎはこういう治療をしてみるので一緒に頑張りましょう」という共闘態勢をつくらないと、本当の戦いはできません。ですから私は、現在の病状と、それに対する治療法、どのような抗癌剤を使うのか、患者さんが納得するまできちんと説明することにしています。

 医者だけが自己満足する癌治療ではだめなのです。病気と治療方法に対する患者の理解と闘う意思がないと、本当の戦いというのはできません。病気と闘うのは、あくまで患者自身です。医者はそのために最大の手助けをする存在なのです。

 治療の過程において、仮につらいことがあったとしても、本人に戦う意思があり、医者との共闘態勢ができていれば、大きな困難があっても乗り越えられるかもしれません。しかし、本人に本当のことが知らされていない場合には、乗り越える前に、逃げるか避けてしまうのが普通です。問題の本質が知らされていない患者さんに、乗り越えるだけの意思が生まれてくるはずがありません。

 告知に際して必要なこと、問題点、そうした詳細は後述するとして、ともかく、充分な抗癌剤治療を有効に行うには、告知するということが不可欠です。


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【副作用のない抗癌剤治療は癌治療に革命を起こす】
第1話 「癌難民」の不幸                    
第2話 抗癌剤治療を成功させるには「告知」が欠かせない


 


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