第1章 あまりに遅れた日本の抗癌剤治療
Web版 第1章その1
【副作用のない抗癌剤治療は癌治療に革命を起こす】
第3話 副作用のない抗癌剤治療の重要性
抗癌剤治療を成功させるために必要なもうひとつの重要な要素は、「副作用のない抗癌剤治療をする」ということです。これが非常に大切なことであり、本書のテーマでもあります。
抗癌剤治療は、さまざまな副作用を生み出し、特に吐き気や食欲不振、倦怠感などに関しては、七転八倒の苦しみを味わうものだと思われています。事実、抗癌剤治療を受けている癌患者さんは、そうした副作用に苦しむ場合がほとんどで、「こんなに苦しむんだったら死んだほうがましだ」と訴えるケースもままあります。
これほどのリスクを抱えているのですから、むしろそれ以上の治療は放棄して、家で好きなようにすごしたほうがいいという考え方になるのも当然です。ましてや、本人に告知していない場合はなおさらのことです。
しかし、もし本当に副作用のない抗癌剤治療を行うことができるならば、普通に生活しながら、なおかつ最後まで決して諦めることなく治療をすることができるようになるはずです。
つまり、単に苦しまないですむということ以外にも、そうした普通の生活ができて、なおかつ治療もつづけられることを実現してくれるのです。
第4話 夜、治療して、昼間は会社でバリバリ仕事
たとえば、私の患者さんの代表的な生活を紹介してみましょう。
大腸癌と転移性肝臓癌で入院してこられた方で、63歳になられる会社社長の男性がいらっしゃいます。仮に山本さんということにしておきましょう。山本さんはすでに癌があちこちに転移しており、治癒(完全に治ること)は難しい現状なので、元気でいる時間を少しでも長く延ばすことを主眼として、治療をつづけています。
治癒と延命治療に関しては、またのちほど詳しく触れることにします。
山本さんは、大腸に癌が見つかって昨年の5月に入院してこられました。手術前の検査をしてみると、大腸癌だけでなく、肝臓にもたくさんの癌が見つかりました。しかも、肝臓に移転していてもその数が5個、あるいは最大10個くらいならば、手術でとることができるのですが、それ以上、無数の転移が見られたので、とても手術で治癒できる状態ではありませんでした。さらに、一般に大腸癌というのは成長スピードが遅いのですが、山本さんの癌は成長スピードが非常に早くて、そのままいけば、じきに亡くなってしまうような状態でした。
本人もそういうことを覚悟しておられたのでしょうか。病との戦いは決して諦めないけれども、残された時間を少しでも有意義にすごそうと思われたようです。どのような生き方が自分にとって有意義かという問題は、それぞれの人間の価値観によってまったく違います。
山本さんは当初、「自分がすきなことをしてすごしたい」ということで、会社をたたんで、みんなに退職金を払って、いっさいの会社生活から退こうと考えていらっしゃいましたが、しかし、やはり最後まで、社会のなかで仕事をしたい、社会に貢献したい、一生懸命に社長として頑張りたいというふうに変わっていったようです。
最後の最後まで癌と闘いながら、社会のなかで生き抜くことを決意されたのです。
さて、ここで大事なことは、抗癌剤治療に副作用がないからこそ、普通の人と同じように仕事ができる、生活ができる、人生を楽しめる、ということです。激しい吐き気や嘔吐に苦しみ、あげくのはてに満足に栄養を摂取できず、ガリガリに痩せてしまったのでは、残された人生を充実させることは事実として困難です。
吐き気もない、嘔吐もしない、普通とおなじように暮せて、しかも効果のある抗癌剤治療で癌を抑えることができて初めて、人生を楽しみ充実させることができると思うのです。
山本さんの生活は、そういう意味できわめて普通です。1ヶ月のうち1週間、入院による抗癌剤治療を行うわけですが、その入院期間でさえも、まるで通院しているような生活になっています。
つまり、仕事から帰ってきて病院に入院し、夜、抗癌剤治療を行います。朝になるとまたいつもとおなじように元気に会社へと出勤されます。そして、一日しっかりと働いてまた夜、病院に戻ってくるというぐあいです。
ですから、入院といっても一般の方々がイメージするような閉じ込められた環境ではありません。むしろ、通院といっていいような状況です。いえ、通院よりももっと楽といえるでしょう。なぜなら、病院というのは役所とおなじで「待たされる場所」の代表的なところですから、非常に時間がかかります。受付して待って診療受けて点滴打って帰る、一日のうちで大事な昼間の時間を大幅に削られます。
ところが、夜の抗癌剤治療は、仕事が終わって、晩ご飯を家で食べて、夜9時ごろから治療を始めます。朝、目が覚めるときにはすでに終わっていますから、通院よりも楽なのです。いってみれば、ホテル住まいのような感覚です。
ですから「いま、自分は癌で入院しているんだ」と自分からいわないかぎり、まわりの人も気づきません。副作用がないですから、病気のように見えないのです。
夜、抗癌剤治療をするといいましたが、実は、これは私が推し進めている治療法で「クロノテラピー」というものです。これに関しては、第2章の抗癌剤治療のところで、また改めて紹介しますのでここでは省略しますが、夜、寝ているあいだに抗癌剤を投与するやり方ですから、昼間は普通に活動できることになります。しかも、効果が高いのです。
このように、抗癌剤治療に副作用がない、というのは、単に苦しまないですむというだけでなく、クオリティー・オブ・ライフという観点からみて、まさに革命的なことなのです。
Web版 第1章その1
【副作用のない抗癌剤治療は癌治療に革命を起こす】
第3話 副作用のない抗癌剤治療の重要性
第4話 夜、治療して、昼間は会社でバリバリ仕事